「羊の国」として知られるニュージーランド。かつては「人間1人に対して羊が20頭以上いる」と言われた時代もありましたが、近年その数は大きく減少しています。親記事では羊の歴史や種類について解説しましたが、1982年にピークの7,000万頭を記録して以降、なぜこれほどまでに羊が減ってしまったのでしょうか。
羊の減少は、単なる人気の低下ではなく、国の経済政策の転換や国際市場の変動、そして農業スタイルの劇的な変化が複雑に絡み合っています。この記事では、ニュージーランドの羊が減少した理由を、歴史的な頭数推移とともに詳しく解説します。
ニュージーランドの羊の数、どう変わった?驚きの推移と現状
まずは、ニュージーランドにおける羊の頭数がどのように変化してきたのか、その推移を振り返ってみましょう。数字を見ると、ニュージーランド農業の大きな転換期が見えてきます。
ピーク時は7,000万頭!1人あたり22頭の時代
ニュージーランドの羊の数が頂点に達したのは1982年。その数は約7,030万頭にのぼりました。当時のニュージーランドの人口は約320万人ほどだったため、国民1人あたり約22頭の羊がいた計算になります。この時期、ニュージーランドの風景はまさに「どこを見ても羊」という状態でした。
2026年現在の状況:3分の1以下への減少
しかし、その後羊の数は右肩下がりに減少を続けます。2018年には2,730万頭となり、最新の統計では2,500万頭前後で推移しています。ピーク時から比較すると、40年余りで約3分の1にまで減ってしまったことになります。1人あたりの頭数も5頭程度まで落ち込んでいますが、それでも依然として世界トップクラスの密度を誇っているのがこの国のユニークな点です。
なぜ減った?ニュージーランドの羊が減少した4つの主要因
羊の数がこれほど劇的に減少したのには、大きく分けて4つの理由があります。これらはニュージーランドという国の在り方を変えるほどの大きなインパクトがありました。
1. 政府による補助金の撤廃(1980年代の経済改革)
最大の転換点は1980年代半ばに行われた大胆な経済改革(通称:ロジャーノミクス)です。それまでニュージーランド政府は、羊農家に対して手厚い補助金を出して飼育を奨励していました。しかし、市場原理を重視する政策への転換により、これらの補助金が突如として全廃されました。 これにより、補助金なしでは経営が成り立たなかった小規模な羊農家が次々と廃業、あるいは他の産業へ転換することとなり、頭数が一気に減少する引き金となりました。
2. 収益性の高い「酪農(乳牛)」への転換
羊毛や羊肉の価格が伸び悩む一方で、世界的に需要が高まったのが粉ミルクやバターなどの乳製品でした。特に中国などのアジア市場の拡大を受け、ニュージーランドの農家の多くが、羊の放牧地を乳牛の牧場へと作り変えました。 親記事の「[乳製品産業の人気の高まりとともに、急激に羊の数は減少していきました]」という指摘通り、牛の方が面積あたりの収益性が高くなったことが、羊から牛へのシフトを決定づけました。
3. 天然繊維から化学繊維へのシフト
かつて「白い黄金」と呼ばれた羊毛(ウール)ですが、ナイロンやポリエステルといった安価で手入れのしやすい化学繊維の台頭により、国際的な需要が低下しました。特に粗いウールはカーペットなどに使われますが、その市場も競合が増えたことで、羊毛生産だけで生計を立てることが難しくなったのです。
4. 土地利用の変化と林業の拡大
近年では、気候変動対策としての「カーボンファーミング(炭素農業)」も影響しています。羊の放牧地を森林に戻し、二酸化炭素の吸収源とすることでクレジットを得る仕組みや、木材生産のための林業への転換が進んでいます。羊を育てるよりも木を植える方が、将来的な収益が見込めると判断する地主が増えていることも要因の一つです。
羊の減少は「ネガティブ」なことばかりではない?
頭数が減ったことは、必ずしも産業の衰退だけを意味するわけではありません。現代のニュージーランド羊産業は、「量から質へ」と進化を遂げています。
生産効率の劇的な向上
羊の数は3分の1になりましたが、実は子羊の生産肉量はそれほど大きく落ちていません。品種改良が進み、1頭の親羊から生まれる子羊の数が増え、さらに1頭あたりの肉付きが良くなったためです。つまり、少ない頭数で効率よく高品質な肉を生産する体制が整ったと言えます。
メリノウールなど高級路線の成功
親記事で紹介されている「[メリノ]」種のように、高品質なアパレル向けの極細ウールは今でも世界中で高く評価されています。安価な大量生産品と競合するのではなく、サステナブルな高級素材としての地位を確立することで、生き残りを図っています。
羊の数が減った背景を理解したら、改めて「そもそもなぜニュージーランドにはこれほど羊が多いのか」という歴史や、今でも大切にされている羊の種類について確認してみましょう。ニュージーランドと羊の深い関わりについては、こちらのメイン記事をチェックしてみてください。
メイン記事に戻る:[ニュージーランドの羊の歴史|数と種類は?]
まとめ:変化し続ける「羊の国」の未来
- 推移: 1982年の7,000万頭をピークに、現在は約2,500万頭前後まで減少。
- 理由: 政府補助金の廃止、酪農への転換、化学繊維の普及、林業への土地利用変化が主な要因。
- 現状: 頭数は減ったものの、品種改良と高付加価値化により、効率的な産業へと進化している。
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